はじめに

この記事では難治性腹水について説明しています。

参考サイト

難治性腹水とは

塩分を制限する、アルブミン製剤を投与する、利尿剤を投与するなど、内科的な治療を行ってもコントロールすることができない腹水が5~10%あります。

このような治療を行ってもなくすことができない、またはすぐにまたたまってしまうことを防げない中等量以上の腹水を難治性腹水といいます。

欧米では難治性腹水は利尿剤抵抗性腹水と利尿剤不耐性腹水とに分類されています。

利尿剤抵抗性腹水

利尿剤抵抗性腹水とは食塩摂取制限と高用量の利尿剤投与(スピロノラクトン 400 mg+フロセミド 160 mg)を行ってもコントロールできない腹水のことです。

利尿剤不耐性腹水

利尿剤不耐性腹水とは副作用のために有効量の利尿剤を投与することができなくてたまってしまう腹水のことです。

腹水がたまる理由

肝硬変などが原因のアルブミン低下

肝硬変などが原因となり、アルブミンをつくる機能が低下します。血液中のアルブミンが少なくなると、血管の外に漏れ出た水分を血管内に戻すことができなくなり、腹水がたまります。

アルブミンとは

血液中のタンパク質の一つにアルブミンがあります。アルブミンは、血管中に水分を保ったり、水分を血管の中に引き込む働きをしています。

炎症性の病気や癌

出典:腹水はどうしてたまるのですか? | 難治性腹水症に対する腹水濾過濃縮再静注法CART

炎症性の病気やがんなどにより、血管から血液成分や水分がしみだしやすくなり、腹水がたまります。

門脈圧亢進

門脈圧の上昇は、毛細管圧の上昇につながり、肝臓の表面や肝外門脈枝から水分が漏出しお腹の中にたまって腹水となります。

門脈とは

出典:心筋-バーチャルラボラトリ

門脈とは一般に毛細血管系同士をつなぐ血管のことですが、最も良く知られているのが消化管と肝臓を結ぶ肝門脈 hepatic portal veinです。

消化管から吸収された物質は肝門脈血流に入り、必ず一度肝臓を通過した後全身の血流に入ることになります。

有害な物質を吸収してしまった際に肝臓で代謝し解毒することが出来るという意味で合理的なしくみです。

難治性腹水の治療

肝移植

肝硬変による難治性腹水の治療法としては肝移植が最も効果的かつ根治的です。
ただし、日本では生体肝移植となることが大多数であり、対象患者が限られます。
侵襲も大きく、大きめの病院でないとできません。

大量腹水穿刺排液/アルブミン静注療法

利尿剤,塩分制限の内科的治療でコントロールがつかない腹水に対して最初に行われる治療が大量腹水穿刺排液/アルブミン静注療法です。
これは血漿増量剤,特にアルブミン製剤を投与しながら腹水が消失するまで腹水穿刺,排液を行う方法です。
特別な器具は必要なく簡単に行うことができます。
全身循環動態,肝・腎機能に悪影響を及ぼさず,利尿剤投与に比べ効果に速攻性があり肝性脳症,腎障害,電解質異常などの合併症が低率とされています。

しかし一般的に重症肝硬変に併発する可能性が高い難治性腹水症例に対しては効果が不十分となることがあり,また少量の腹水穿刺でさえも肝性脳症が誘発されうることに注意が必要です。

腹水水濾過濃縮再静注法(concentrated ascites re-infusion therapy:CART)

CARTとは、Cell-free and Concentrated Ascites Reinfusion Therapy/腹水濾過濃縮再静注法の略です。

肝硬変や癌などによって貯まった腹水を濾過濃縮して、癌細胞や細菌を除去し、アルブミンなどの有用なタンパク成分を回収する治療法です。

難治性腹水症例では,手技が簡便であり特別なデバイスを必要としない腹水穿刺排液法/アルブミン投与がまず施行されることが多いです。しかし腹水排液中にはアルブミンやγ-グロブリンなど有用な蛋白成分が含有されています.喪失した蛋白,特にアルブミンを補充するには十分量のアルブミン製剤が必要となる点が問題です。
CART は,1977 年に旭メディカル(株)で開発された腹水処理システムにより,腹水中の除菌・除細胞と濃縮した蛋白の再利用を行う方法として,高い安全性と延命効果が期待されるようになりました。1981 年に保険収載されて以降,難治性腹水に対する治療法として本邦の各種ガイドランに推奨されるようになりました。

CARTの長所

肝硬変が進行すると、腹水が貯留するようになります。肝硬変に伴う腹水貯留のメカニズムの詳細は不明な点もありますが、血液中の蛋白質であるアルブミンの低下が関係していると言われています。

アルブミンは肝臓で合成されるため、肝硬変で肝臓の機能が衰えると満足にアルブミンが生成できなくなり、結果として血液中のアルブミン濃度が低下します。これにより血液の浸透圧が低くなり、血液中の水分が血管外へと漏れ出してしまうのです。

腹腔内へ水分が漏出すると腹水として表れるようになります。他には、胸水や手足の浮腫みとしても表れます。腹水中にもアルブミンは含まれており、腹水を繰り返し抜くことにより腹水中のアルブミンを失ってしまい、結果として血液中のアルブミンまで低下してしまいます。

これを防ぐために、アルブミン製剤を点滴により補充する方法もありますが、アルブミン製剤は人の血液から精製されるので、ウイルスの感染やアレルギー症状などが問題となることがあります。

CARTでは、自分自身の腹水に含まれるアルブミンを濃縮し再び自分の体内に戻すので、腹水を抜くことによるアルブミンの喪失を防げます。さらに、自分自身のものであるので、ウイルス感染やアレルギー症状を起こす可能性も極めて低くなります。

利点としては他の治療法と比較し安全性に優れるということです。
コンセプトは大量腹水穿刺排液/アルブミン静注療法と似ており,長期予後,腹水再発率については同等です。
日本のアルブミン製剤の自給率は 50% を下回っておりアルブミン製剤の使用に限度があるという現状や,自己蛋白を利用するためアルブミン製剤投与に伴うウイルスや未知の病原体に感染するリスクがないなどの理由により,利点が広く認知されています。

CARTの難点

難点は腹水濾過濃縮を施行するには専用の回路が必要であり,また臨床工学技士が行わなければならないため中小規模の施設では施行しにくいということです。さらに回収された処理前腹水が 1.5 L 以下ではアルブミンの回収率が低いと報告されており,低アルブミン血症の改善を目的とした治療においてはその効果に疑問が残ることです。

CARTの副作用

重篤な副作用は認められないが,高頻度に発熱,悪寒を認めます。

CARTの対象となる人

肝硬変に伴う腹水を生じている方で、利尿薬によるコントロールが困難な方。その他にも、癌により腹水を生じている方も適応となります。

CARTの手順

腹水濾過濃縮の過程について説明します。

最初に数時間かけてなるべく大量の腹水を専用の貯留バッグに貯めておき,その貯められた腹水を 2 つのフィルターを通過させることにより腹水を濾過濃縮させます。
まず腹水濾過フィルターによって腹水から細胞や細菌を除去します。この腹水濾過フィルターは最大孔径が0.2μmであるため,細菌(1μm)や細胞成分(10μm)は通過できません。
次に腹水濃縮フィルターによって余分な水分の除水を行います。腹水濃縮フィルターは電解質,水分は通過するが,アルブミン(分子量 6.8 万)やγ-グロブリン(分子量 16 万)はフィルターを通過しません。この濾過濃縮の結果,腹水は約 10 倍に濃縮されます。

腹腔静脈シャント(Den-ver shunt)

腹腔静脈シャントの歴史は古く,難治性腹水に対するシャントとしては LeVeenshuntが長い間使用されていました。これはポリプロピレン性で 1 方向性のバルブが内蔵されおり,腹腔―静脈の圧較差が 3 cmH2O となるとバルブが解放され腹水が静脈に流入するという仕組みになっていました。
しかしシャント閉塞などトラブルが多かったため,現在では製造,販売はされていません。
その後シャントチューブに様々な改善が加えられた Den-ver shunt
が主流となり現在に至っている.
Denver shunt は LeVeen shuntと同様に 1 方向性のバルブが内蔵されているがシリコン製で一体化され,チューブの3/4 がヘパリン処理されている.
また閉塞を防止するため逆流防止弁が付けられており,さらにポンプ付きチャ
ンバーが備え付けられるようになった.Denver shuntは 1 cmH2O の圧較差でバルブが解放されるが,チャンバーを患者が押すことにより能動的に腹水が静脈に還流させることができ,チューブ閉塞防止の役割をしている.
Denver shuntの適応
Denver shuntの適応は腹水貯留により日常生活が障害されている患者で,内科的治療に反応しない難治性腹水である.これは肝硬変患者に限らず,癌性腹膜炎による腹水症例にも当てはまる.
具体的には利尿剤やアルブミンの投与で持続的な効果が得られない,週 1回以上の頻度で腹水穿刺が必要である場合などが適応となる.
Denver shuntの禁忌
禁忌についての詳細な部分に関しては共通のものはなく各施設により判断されているが,絶対禁忌は腹水中エンドトキシンや細菌培養が陽性であるような細菌性腹膜炎症例である.
特に肝硬変患者の場合,特発性細菌性腹膜炎(SBP)を併発していることがあるため慎重に判断しなければならない.
また肝硬変に伴う門脈圧亢進症は,腸管血流のうっ滞によりBacterialtranslocation を誘発し血中,腹水中のエンドトキシン濃度が上昇しているとの報告があるため注意が必要である

経頸静脈的肝内門脈短絡路(transjugu-lar intrahepatic porto-systemic shunt:TIPS)

TIPS は門脈圧亢進症による消化管静脈瘤や難治性腹水に対する治療法の 1 つとして認識されています。経内頚静脈的に門脈と肝静脈の間に短絡路を作成し門脈圧を低下させる方法です。
有効性が高い治療法です。
門脈圧低下により肝類洞圧が低下しリンパ漏出が軽減すること,神経体液性因子や交感神経系の亢進状態の改善なども TIPS による腹水減少の一因と考えられています。
TIPS の適応に明確な基準はないが,高度肝機能障害,腎機能障害(血清クレアチニン 3.3 mg/dL 以上),肝性脳症,敗血症,門脈血栓症などを伴う症例に対しては適応外とする施設が多いです。
ランキング1位
ランキング2位
ランキング3位