薬物性肝障害は、どのようなメカニズムで起こるかによって、中毒性と特異体質性、特殊型の3つに分類できます。
特異体質性の薬物性肝障害はさらに、アレルギー性特異体質性と代謝性特異体質性の2つ分類できます。
以下ではこれらの薬物性肝障害についてみていきます。
中毒性薬物性肝障害
中毒性の薬物性肝障害は、薬そのもの、あるいは薬が代謝されてできた物質が直接、肝臓に悪さをして起こります。
このように、肝臓に悪さをする性質を肝毒性といいます。
また、薬が代謝されてできた物質を薬の代謝産物といいます。
体の中で肝毒性のある物質が増えれば増えるほど、肝障害の程度は強くなります。このように、中毒性の薬物性肝障害は用量依存性に起こってきます。たくさんの薬を使って初めて肝障害がでるのが中毒性の肝障害です。
薬の量とその作用の関係について考えてみます。薬は、量を増やすと効果も強くなります。このことを、「薬には用量依存性がある」といいます。
前述のように、中毒性の薬物性肝障害は用量依存性に起こります。薬の投与量がある程度までであれば肝障害は起こりません。しかし、一定の投与量以上の薬がカラダに入ると肝障害が起こります。
薬を大量に使ったことが原因で起こる肝障害は、用量依存性に起こっていると考えられます。ですから、これは中毒性の薬物性肝障害であると考えることができます。
中毒性の薬物性肝障害は、動物実験をすることで再現することができます。ですから、それぞれの薬で肝障害が発生するかどうかをおおよそ予測することができます。
中毒性薬物性肝障害を起こす物質の代表
中毒性薬物性肝障害を起こす薬の代表的なものに、カロナール(一般名:アセトアミノフェン)があります。
これは熱さましや痛み止めとしてしばしば使われる薬です。市販されている風邪薬にもよく混ざっています。この薬は用量依存性に肝障害を起こすので、誰でも大量に飲めば肝障害がでます。
他に、パラコート(除草剤)、四塩化炭素、キノコ毒などによる肝障害も中毒性薬物性肝障害に含まれます。
特異体質性薬物性肝障害
中毒性の薬物性肝障害は用量依存性に起こるものでした。特異体質性の薬物性肝障害は、使った薬の量には関係なく起こります。すなわち、特異体質性の薬物性肝障害は用量依存性ではないということです。
日常的にみられる薬物性肝障害の多くは、特異体質性の薬物性肝障害です。
動物実験で確認することが難しいため、発症を予測することは困難です。
原因となる薬物を使い始めてからすぐに起こらず、一定の期間がたってから起こることもあります。
原因薬剤が分かれば使用を中止することで、すぐに肝障害は改善することが多いです。
アレルギー特異体質性薬物性肝障害
アレルギー性特異体質性の薬物性肝障害は、薬そのもの、あるいはその代謝産物がハプテンとなり、免疫反応を引き起こすことで起こります。
ハプテンは、不完全抗原と言われており、それ自体では免疫反応による抗体産生を引き起こしません。しかし、それが体内の何らかのタンパク質と組み合わさると免疫反応を引き起こす力を得ることがあります。
抗菌薬によるアレルギーの例を考えてみます。
抗菌薬の代表にペニシリンがあります。ペニシリンはそれだけでは免疫反応を引き起こしません。しかし、ペニシリンが赤血球のタンパク質とくっつくと抗体産生を引き起こす原因になることがあります。
この場合、ペニシリンがハプテンとなり、免疫反応を引き起こしたと表現されます。
アレルギー性特異体質性の薬物性肝障害は、薬物性肝障害の中でも最も頻度が高いです。
代謝性特異体質性薬物性肝障害
代謝性特異体質性の薬物性肝障害は、薬物を代謝する役割を果たす酵素の個人差が原因で起こります。
具体的な酵素には、シトクロームP450(CYP)2A6、2D6、2C19やGSTなどがあります。
このタイプの薬物性肝障害は、原因となる薬物を使い始めてから半年以上たったあとに起こることもあります。
現在、診断がとても難しい薬物性肝障害の一つであると考えられいます。しかし、将来的には、薬物代謝にかかわる酵素の遺伝子を調べることが今よりも簡単にできるようになることが予想されるため、発症しやすい人をあらかじめ予測することができるようになると言われています。
代謝性特異体質性薬物性肝障害の原因になりやすい薬物
代謝性特異体質性の薬物性肝障害の原因になりやすい薬物には、イソニアジド、アミオダロン、ジクロフェナクナトリウム、フルタミド、バルプロ酸などがあります。
特殊型薬物性肝障害
特殊型の薬物性肝障害は、脂肪化を引き起こしたり、肝腫瘍を引き起こしたりします。また、自己免疫性肝炎、非アルコール性脂肪肝炎などの原因にもなります。
肝腫瘍は、経口避妊薬や蛋白同化ホルモン薬などを長い間、使うことで起こります。
まとめ
薬物性肝障害には中毒性、特異体質性、特殊型があります。
特異体質性はさらにアレルギー性特異体質、代謝性特異体質性に分けられます。